グロい(一部)!キモチワルイ(一部)!キワモノギリギリ(一部)!でもゾクゾクするほど面白い!!
「パフューム ある人殺しの物語」は、ある意味想像を裏切る作品でした。もっと上品ぶって繊細な芸術性を前面に出した、ちょっと猟奇的なミステリーかと思ってたんですよ。ところが、始まった途端どうよ?!「これでもかっ!」という、グロで吐き気をもよおしそうな魚市場の描写、そこで産み落とされる赤ん坊、ドロドロのグチャグチャ。この手の映像と音にからきし弱い私は正視していられず、
「ぎえぇぇぇ、キボチワルイ~~~!隣でやってる『ドリーム・ガールズ』見れば良かったよぉぉぉ」と、ほとんど眼を閉じんばかり。でも最初のほうのグログロな映像は、わざとなんですね。物語が進むにつれて出てくる美しく芳しい映像と香り(匂ってこないけど)との鮮やかな対比になってるわけだから。しかし、モノには限度ってものがあるでしょうが、あそこまでグロいのはやめてくれよっっ!(あ、でも私の場合この手のシーンに過敏すぎる傾向があるので、普通はそこまで拒否反応起こさないと思われます。あんまりビビらないでね。)
と、のっけから文句垂れちゃいましたが、この映画かなり好き嫌いが分かれるかもしれません。でも私は非常に面白かった。ところどころ「おいおい、これはどこまでマジメにやってるんだよ」と突っ込みを入れたくなるような笑えるシーン(笑うべきではないかもしれないけど。特にあの群集シーンよ)もあるけれど、なんというか、
「物語を楽しむ」という昔ながらの感覚を思い出した感じで、満喫しちゃいました。
およそ現実にはありえないストーリーなんですよ。主人公は
犬よりもスゴイ類まれな嗅覚を持つ孤児のジャン=バティスト。彼のキャラがもう、ありえなすぎ(笑)。だって目で見るより音で聞くより、匂いですべてを事前に察知しちゃうもんだから、遠くからモノが飛んでくるのも匂いで気付いて避けたりするし、誰かを探していても匂いを辿っていけるから絶対見失わない(笑)。
ストーリーの展開も非現実的。でもこれはおとぎ話、ファンタジーなんですね。見ている間なんとなく懐かしいような思いにかられ、これって何だろうと考えていて思い当たったのは、子供の頃に読んだり見たりした童話の世界。それも「本当は怖い○○童話」みたいに、実は非常に残酷でグロテスクでゾッとする、でも魅惑的で覗き見ずにはいられない、そんな世界。「青ひげ」とか昔アニメで見たときのゾッとしつつ目が離せない感じに近いかもしれません。
この映画は、現実的でないとかそんなことは置いといて、「物語性」を楽しんでその世界に浸るべき作品じゃないかと思います。その語り口にスッと入り込める人なら、相当面白い一本なのではないかしら。(ちなみにナレーションが渋くて深みがある声で、誰かと思ったら
ジョン・ハートでした。さすが)

何も知らずに見たほうが楽しめると思うので、詳しいあらすじは書きません。書きたいけど(笑)。本当にサクッとだけ説明しますね。
18世紀、悪臭が街を覆い尽くすパリが舞台。貧しい孤児のジャン=バティストは暴力的なボスに虐げられながら肉体労働に励む毎日。が、あるとき街中でフルーツを売り歩く赤毛の美しい娘の芳しい体臭に惹き付けられ、彼女の後を追うんですね。しかし、不幸にも・・・(以下省略)。彼は人間の女が放つ甘美な香りを、なんとか「保存」できないかという思いに獲り付かれてしまうのです。偶然出会った調香師に弟子入りし、匂いを嗅ぎ分ける天才的な才能を提供する代わりに彼の元で香水作りを学び、やがて「人間の匂い」を香水として閉じ込める術を手に入れようと、香りの聖地グラースへと旅立つのです。そしてその地で究極の香水を作るべく、彼が取った手段とは・・・。こんな感じのストーリーです。
この映画の宣伝コピーを見れば、ジャン=バティストがどうやって究極の香水を作ろうとするのか、大体の想像はつきますよね。ジャン=バティストにとっては純粋でひたむきな情熱ゆえの行動なんだろうけど、世間ではそれは凶悪な事件になってしまうわけで(そりゃそうだ)。
誰よりも天才的な嗅覚を持ち、人をメロメロに陶酔させてしまう香水を作ることができるジャン=バティストなのに、皮肉にも自分自身には体臭というものが「ない」。彼は無臭の人間なんです。だから、人々にその「存在」を記憶されることがない、実体のない幽霊になってしまうことを彼はとても恐れているんです。そのために、彼が求める、彼にしか作れない究極の香りを作ることで自分の名を世に残したい、人々の心を掴みたいと望むのです。そして、その香りを完成させるためには、世にも稀な麗しい体臭を持つ美しい娘、
ローラがどうしても必要だと彼は考えます。ジャン=バティストは、究極の香りを作ることで、かつて街中で見つけ、その香りに惹き付けられ結果として失ってしまった赤毛の娘に近付くことができると考えていたんですね。
その後彼の運命がどうなっていくかは、映画を見てほしいので述べませんが、彼が望んだ幸福の絶頂、欲望の完成形は、皮肉にも彼の孤独を余計に際立たせるものになります。
それにしても、あの
群集シーンの皆さんの乱れっぷり壊れっぷりは、一体どうしたことよって感じで違う意味でも必見(笑)。うーん。イロモノ、キワモノ、一歩手前ですわ。これ撮影するとき凄かっただろうなぁ・・・。ダンサーたちをエキストラで使ったそうですけど、私だったら絶対出たくない(笑)。
この映画、ほんと人によって判断分かれると思います。こき下ろす人も結構いると思います。でも私はすごく面白かったんですよ。ここまで「作り物の面白さ」を堂々とやってくれたら、文句は言いませんね。冒頭のグロシーンだけは受け入れられないけど、ジャン=バティストの人生の結末のありえなさも、子供の頃に見聞きしたコワイ童話と同じ匂いがして、映画のマジックとして信じてもいいかなって思えたし。そして、ものすごく悲しい男の物語なのです。

主演の
ベン・ウィショーを最初写真で見たときは、地味だし無名だし「ちょっとどうなのよ」と思ったんですが、本編を見たらすごく役にはまってました。無垢でナイーブな少年ぽさがあるのに、悪魔的な薄気味悪さも垣間見え、時々くたびれ果てた年寄りみたいに見えることもある。いろんな顔を持っているのに、全体の印象が地味で目立たない。そのへんが、愛し愛されることを知らない主人公にぴったりだったかな、と。
そして、前半部分でグロくて暗い映像を見せられ、「うーん、ずっとこの調子でいくのかな、参ったなー」と思っているところに、いい具合に登場するのが
ダスティン・ホフマン演じる調香師。かつてヒット商品を生み出して時代の寵児になったものの、今では才能が枯れ果てて店は閑古鳥、一人で店番しながら立ったまま居眠りこいちゃう老いぼれ役。ダスティン・ホフマンが出てきたら、わけもなくホッとしてました私。いやー、名の知れたスター俳優の存在ってやっぱりありがたいですよ。どんな映画でもキャリアのある大物スターが出てくると、映画そのものに説得力と安心感がパッと生まれるんですね(私がハリウッドに毒されてるのかもしれないけど)。この映画でのダスティンの役どころはユーモラスでもあるので、いいスパイスになってると思います。白塗りに口紅塗った姿が笑えます。でも出番少ないんだ!
後半になるとダスティンに代わって
アラン・リックマンが出てきます。彼は成功した金持ち商人であり、ジャン=バティストの標的になる美少女ローラの父親。ちょっと太りましたね、この人。でも貫禄ありです。

そしてローラ役の
レイチェル・ハード=ウッドはまだ10代だそうですけど、可愛いです。美しい。まだ子供っぽいけど。ジャン=バティストにとっての「運命の女」は、このローラと、最初に出会う果物売りの娘(名無し)の二人なんですが、どちらも燃えるような赤毛なのが印象的。
そして、本当の意味でジャン=バティストにとって「運命の女」であるのは、最初に出てきた果物売りの娘だと言えます(↓下の写真の女の子です。ちょっとキアラ・カゼッリに似てるし、ジュリー・デルピー風にも見える、はたまたジュリエット・ビノシュにも似てないか?!)。彼女の香りの再現を求めたからこそ恐ろしい計画を思いついたわけですし、歪んだ初恋でもあったんでしょうね。

監督は
トム・ティクバ。
「ラン・ローラ・ラン」と、私の好きな
「ヘヴン」の監督です。「ラン・ローラ・ラン」はあんまり好きじゃないんだけど、この監督さんって毎回作品のテイストが違う人ですね。とりあえず、今回のグロいシーンてんこ盛りはなんとかしてくれませんかね、ティクバ監督~~。
あと、特筆すべきは音楽の素晴らしさ!
ベルリン・フィルハーモニーが演奏してるんですって。納得。音楽は本当に素敵でした。荘厳なオペラのよう。
アカデミー賞最有力!って前宣伝する映画ほどアカデミーをかすりもしないのは毎度のことですが、この作品もそうだったみたいですね(笑)。ちょっとそういうタイプの作品ではないと思うし。
映画の最大のテーマである「香り」が、映像では伝えようがないのは仕方ないことで、見ていてもどんな香りか分からないというジレンマにイライラする人には向かないかも。女性のほうが普段香水やアロマテラピーなんかで香りに触れる機会が多いから、見ていて想像しやすいんじゃないですかね。
ジャン=バティストが巷で売れまくっている「愛と精霊」というネーミングの香水(彼に言わせると「ヒドイ香り」。要するに俗っぽいセンスのない香りってことでしょう)のレシピを次々と言い当てるワクワクするシーンがありますが、「ライム」「オレンジ・ブロッサム」「麝香(じゃこう)」「ベルガモット」・・・などなど香りの名前が出てくるたびに、私の中でその匂いが思い出され、何気に自分も香りをブレンドした気になってました(笑)。
それにしてもジャン=バティストの香りのブレンドの仕方、すっごいアバウト。目分量なんてもんじゃない、チャチャッと混ぜてビンをブンブンってシェイクして、ハイ出来上がり!ってあんた大丈夫それで?!みたいな感じです。なのに、超いい香りに仕上がってるなんて、どう見ても漫画、どう見てもおとぎ話。でもそういう「ウソばっかり~!」なマジックって、見ていて楽しいじゃないですか。だから私はこの映画、好きなのかもしれません。グロいのはイヤですが(笑)。
それにしても、このベストセラー小説を、
スピルバーグと
スコセッシが映画化権を奪い合ったそうですが、どっちの人もこの作品と全然テイストが合わないんですが・・・。血なまぐさくて暴力的な
スコセッシ版パフュームとか?やっぱ嫌かも(笑)。

↑このあと、それはもう大変なことに・・・・。(赤面)