秋が深まってまいりましたね。皆さん、お元気ですか?
最近の私は、毎日電車の中でこういう状態です。→
ええ、ええ、激務のせいですとも。
もう半分死んでるような爆睡で、気がつくと昏睡状態に陥ってる感じであります。
でも長い通勤時間、座ってるときは昏睡状態、座れないときは廃人状態では、あまりにも悲しすぎます。残念ながら未だiPodをGETできていない私としては、せめて読書くらいはしたいものであります。
でね、最近読了したのが、これです。
マイクル・コナリーの「暗く聖なる夜」。
マイクル・コナリーはアメリカで大人気のハードボイルド作家です。なんだけど、なぜか日本ではいまいち認知度が低いのです。なんでですかね。すごく面白いのに!(ちなみに
クリント・イーストウッドの「ブラッド・ワーク」という映画の原作も、コナリーの小説です。原作は
「わが心臓の痛み」のタイトルで既刊)
コナリーといえば、
ハリウッド署殺人課刑事ハリー・ボッシュシリーズが有名で、この「暗く聖なる夜」はシリーズ9作目になります。
ハリー・ボッシュは本名が
ヒエロニムス・ボッシュ。(非常に不気味で印象的な絵を描く画家と同姓同名。)ベトナム戦争時にはトンネル工作兵として極限状態で生き抜いた経験を持つ男で、売春婦だった母親を子供の頃に亡くし、孤独な人生を歩んで来た一匹狼。組織には馴染まず、上司や同僚と衝突し、一人事件の真相へ向けて突っ走る、時々「困ったちゃん」な男の中の男です。
シリーズ最初の頃は、とてもクールで乾いた感じの作風だった気がするのですが、回を重ねるごとに、ハリーのトラウマや人間性が浮彫りになっていきます。そしてシリーズものが陥りやすいマンネリやダレ感などまったく無縁のハリー・ボッシュ、何がすごいって最新刊が出るたびに、どんどん面白さが加速していくんですよ。
前作の
「シティ・オブ・ボーンズ」のラストでボッシュは刑事生活の一大転換期を迎えたんですね。読み終わったとき、正直愕然としたくらい。「いったいどうなっちゃうの?!ああ!早く続きが読みたい!!」と、私をせつなく狂おしい気持ちにさせたマイクル・コナリー。・・・・いや~さすがだわ・・・。今回はボッシュの新しい生き方がまた更に魅力を増し、しかも文体が三人称からボッシュの一人称に変わったことで、ますますボッシュへの読者の愛情が膨らむ仕掛けになっているではないの!
今回の「暗く聖なる夜」は、原題が
「LOST LIGHT」。この言葉の意味するところも、物語の終盤に出てくるんだけれど、邦題となった「暗く聖なる夜」というのは、
ルイ・アームストロングの
「この素晴らしき世界」の歌詞から取っています。この小説の中で、非常に大事な使われ方をするフレーズなんですね。
今回ボッシュが探ろうとするのは、数年前から未解決になっている若い女性の殺人事件と、その直後に起こった強盗事件。題材そのものも非常に面白いけれど、今回は特に「愛」についても考えさせられるんです。ボッシュの、別れた妻への愛情には、ちょっとせつなくなってしまいます。(ボッシュが愛について信じる「一発の銃弾説」というのがとても印象的なのです)
最後の方に出てくる事件にからんだ辛いシーンは、抑えた描写ゆえに余計に泣けてきました。そしてボッシュに訪れる、ラストシーンの希望。シリーズ中、今作が一番好きかも。
今年のミステリーベスト10に、絶対この作品は入ってほしいですねー。
シリーズものなので、当然過去作品でおなじみの登場人物も出てくるけれど、いきなり今作を読んだとしても、十分楽しめる内容になっていると思います。マジでかっこいいです。ほんと、コナリー作品、もっとみんなに読んでほしいんだよーー!
最後に、今作のプロローグ部分の文章をそっくりまるごと転記したいと思います。
私はこの出だしで、しびれました。そして小説をすべて読み終わったあと、もう一度、このプロローグ部分を読み返してみると、更に胸に響きます。必読です。騙されたと思って読んでみてね☆
『暗く聖なる夜』
「心に刻まれたものはけっして消えない。
以前、ある女性から、そんなセリフを聞かされた。好きな詩の一節だそうだ。もしなにかを心のなかに収めたら、本気で赤いビロードのような襞のなかに収めたなら、いつまでもそこに残っているという意味だと理解している、と彼女は言った。なにがあったって、そこで待ちつづけているの、と。待っているのは、人でも、場所でも、夢でもありうる。使命でも。神聖なものであればどんなものでも。秘密の襞のなかで、みんなつながりあっているのよ、と彼女は言った。つねに。みんな同じものの一部であり、つねにそこにありつづけ、あなたの心臓と同じ鼓動を搏つのだ、と。
わたしは五十二歳だが、その話を信じている。眠ろうとして眠られぬ夜は、そのことを強く意識する。そういうとき、すべての道がつながっているように思え、愛した者たち、憎んだ者たち、助けた者たち、傷つけた者たちの姿が目に浮かんでくる。わたしに向かって伸ばされる手が見える。鼓動が聞こえ、自分がなにをしなければならないのか、わかり、理解する。自分の使命を悟り、顔を背けることも、背を向けることもできぬことを知る。そしてそうしたときに、心に刻まれたものはけっして消えないことを悟るのだ。」