
先日読んだ、
トンデモ精神科医伊良部シリーズの
「イン・ザ・プール」が面白かったので、同じ
奥田英朗氏の短編集
「ガール」が気になっていた。
なんでも三十路OLを中心に、巷で大絶賛を浴びている痛快な小説集らしいじゃないの。表紙のあまりにラブリーなイラストに一瞬「むむ」と唸ったものの、物は試しと読んでみたら、評判どおりの面白さだった。これはぜひオススメしたい一冊です!
5つの物語から構成されていて、どのストーリーも主人公は30代のキャリアガール。既婚・未婚・シングルマザーと様々だが、長年企業で働き続け、仕事も女としても中堅どころに差し掛かった(?)微妙な年代の女子の日常を、軽快な文体で面白おかしく時にホロッとさせながら描いてみせてくれる。
ここに出てくる三十路ガールズたちは、基本的に四年制の大学出身で、勤めている企業もわりと一流どころが多い。なので、
「世の中こんなにリッチで恵まれた三十路ばかりじゃないやい」という一庶民としての疑問も感じないではなかったが、それでもたぶん30代の女性なら、一度でも会社というところで働いた経験のある人なら、きっと
「そうそうそうそう!」「こういう奴いるよねー!」と共感できること間違いなしの本だ。しかもこれを書いた奥田氏は男性、おまけに40代後半。・・・何故にこんなに三十路女の気持ちが分かるのか。怖いくらい。
各ストーリーの主人公は大体以下の通り。
☆第一話 「ヒロくん」☆・・・聖子、35歳。大手不動産会社勤務、異例の人事で営業課長に抜擢される。既婚、子なし。
☆第二話 「マンション」☆・・・ゆかり、34歳。大手生保会社勤務。親友がマンションを購入したのに触発され、自身もマンション購入を考えはじめる。未婚。
☆第三話 「ガール」☆・・・由紀子、32歳。大手広告代理店勤務。ルックスに自信ありで華やかな20代を送ったものの、近頃曲がり角を自覚してへこみ気味。未婚。
☆第四話 「ワーキング・マザー」☆・・・孝子、36歳。大手自動車メーカー勤務、3年ぶりに営業畑に復帰。バツイチで小学生の息子と二人暮し。
☆第五話 「ひと回り」☆・・・容子、34歳。老舗文具メーカー勤務。ひと回り年下のイケメン新入社員の指導係に任命され、胸をときめかす。未婚。
ざっとこんな感じで、数字だけ見ると昔なら見事に「オバサン」と言われた年齢の彼女たち。けれども実際自分も同じ年代の私からすると、今時の三十路女ははっきり言って見た目も中身も「若い」。若者から見たら十分「オバサン」なのかもしれないけど、本人にしてみればそういう自覚がまったくなく、この本のタイトルどおり相変らず自分のことを「ガール」だと信じきっているのが今の働く30代だと思う。
だけど現実として、20代のピヨピヨキャピキャピした若者たちと一緒にいると、ふと「もう自分もガールじゃいられないのかな」と落ち込む年代でもある。そういう微妙に揺れる女心と、三十路ならではの図々しさやたくましさをとてもリアルに描いたこの小説は、女性が読めば元気の出るビタミン剤になるし、男性が読んでも、女の強さと繊細さがよく分かってかなり楽しめると思う。
私自身も職場でうんと若い人達と一緒に働いたり、かなり年下の相手から指示を受けることもある場にいたりするので、やはり複雑な心境になることは多々ある。はっきり言って、最近自分は完全に
「アダルトチーム」側になったな、というのを認識している。特に飲み会のときとか。もうねー、昔のギャー!っと騒ぐ若者のノリがかったるくて仕方ないのよー。「コドモはこれだからやだやだ」とか心の中でブツクサ言ってるタイプだね。オトナはオトナでゆったりしたテンポで語り合ってるほうが落ち着くしさ。
ただ私の場合は、20代の時の自分より、アダルトチーム側になった今の自分のほうが好きなので、年齢差を実感して落ち込むとかいうことはさほどない。大体、今時の流行の歌を知らない自分を「カッコイイ」と思ってるからね。(←この時点で既に終わってるか。)
それでも、この小説集を読んでいると、ヒロインたちの「若さ」への焦りだとか、いつのまにかもうチヤホヤされなくなった淋しさだとかは、手に取るように分かる。自分たちが若かったころ、会社のお局様を別の生き物のように見ていて、世界は自分たち20代が中心と思い込んでいたのに、気付いたら自分はそこからとっくにはみ出している。かつての「お局様」の年齢すら追い越してしまっているという現実・・・。でもそこで「どうせもう私なんて・・・」とダウナーにならず、
「だからどうした、私は私として頑張って今の自分を生きてるぞー!誰にも文句は言わせないぜ!」という、あっけらかんとした明るさとたくましさが、読んでいるこちらにもパワーをくれるし、これくらい人生経験重ねてきた女のほうが、ただ若いだけの女よりよっぽどチャーミングかもしれないと気付かせてくれる。(と、思いたい。って言うか、私は思ってるけどね。ほほほ)

そして、女がキャリアを積んで男性と渡り合って働くことの難しさ、目の前に立ちはだかる壁などもちゃんと描かれていて、特に第一話でヒロインが啖呵を切るシーンは泣けた。
男性作家が書いているからか「男」の描き方もとてもリアルで、「いるよなー、こういう人、会社に」と多分誰もが思うはず。ヒロインに非協力的で仕事をやりにくくする男性の同僚に対し、
『この男は女房とホステスと部下しか女を知らない』などとズバッと書けるのは男性作家ならではかしら。でもその男性社員にしても、根っからの悪者ではなくて、彼の立場に立てばヒロインの存在がいかに邪魔で煙たいかは理解できるし、そういう意味で「組織で働く」ことの現実をしみじみ実感させてくれるのが、この小説の面白さだと思う。(どの章にもヒロインの上司が脇役で出てくるんだけど、それぞれいい味を出している。会社ってこういう「オジサン」で成り立ってるんだよねー。)
そして、ライバルであったり年齢差があったりで、なかなか分かり合えないように思える女同士も、一皮剥けば誰もが「ブルー」なのだということ、女同士だから最終的には根っこで分かり合えるということもちゃんと書いてくれていて、そこがまたジーンとくる。後輩の女の子を守ろうとするヒロインの気持ちとか、なんだか分かるんだなー。
どのパートも面白いけれど、最終話の
「ひと回り」はなかなか秀逸。一回りも年下の美形の新入社員に夢中になった三十路ヒロインが、彼に言い寄ってくる若手女子社員のモーションをことごとく妨害する。そうやって攻防戦を繰り広げる30女の姿は、同じ三十路の私から見てもかなり滑稽でイタイ。でも女なら年齢を問わず、絶対に分かるあの感覚。女と言うのは、どんな美女でもカワイイ子でも、男に対して必死なところが見えると、ものすごくカッコワルイ。そして誰もがそういう女の悲しい性を実感したことがあるはず。ましてやそれが10以上も年上の女だったら尚更だ。
30代というのは、そういう「若気の至り」で済まされる舞台から、潔く身を引く覚悟をする年代でもあるのかもしれない。ちょっと淋しいかもしれないけど、引いたら引いたで今度はもっと新しい世界が待っている。そんな気がする。私はこの最終話を読み終わったとき、自然と顔に微笑みが浮かんでいた。
いろんなパターンが描かれるけど、この本の全編に渡って共通するテーマは
「生涯、一ガール」としてガンガン生きていく女のたくましさ。「私もこれでいいんだ」と開き直って明日からがまた楽しくなる。そんなハッピーな小説集。女子一人に一冊、必読の本です。