『男は魅力を感じた女を徐々に愛するようになるが
女は愛を抱いた男に徐々に魅力を見出していく』
1989年の映画
「セックスと嘘とビデオテープ」の中で、
ジェームズ・スペイダーが本からの引用として口にするセリフ。
これ、思わず「ズバリ!そうでしょう!」と膝を叩いてしまった格言(?)。
今度使ってみようっと♪(笑)
学生の頃、背伸びして見に行ってとても印象に残ったこの作品。けれども当時はまだ私もコドモで、正直「愛」とか「男女」とかよく分かってなかったので、この映画が何を言いたいのかいまいちピンと来ませんでした。
で、「もっとオトナになったら見直してみたいな~」と思い続けて十数年。先日念願叶って再見することができました。
こういう映画だったのか!!(笑)
登場人物は主に4人。
アン(アンディ・マクダウェル)は弁護士の夫を持つ、潔癖で貞淑な専業主婦。
その夫の
ジョン(ピーター・ギャラガー)は、アンの妹で奔放な
シンディ(ローラ・サン・ジャコモ)と浮気中。
アンは夫に対する漠然とした嫌悪感や不信感、そして人生に対する満たされなさを抱き、またシンディとも性格の違いゆえかぶつかってばかり。
そんな彼らの前に、ジョンの大学時代の友人
グレアム(ジェームズ・スペイダー)が現れる。いつも「葬式のような」黒いシャツを着て、世捨て人のように気ままな生活を送る不思議なグレアム。彼の登場によってアン、ジョン、シンディの人生にわずかな歪みが生じていく。そしてグレアム自身もまた、ある秘密を抱えていて・・・・。
「トラフィック」や
「オーシャンズ11」、
「エリン・ブロコビッチ」などなど、すっかりハリウッド風味が板についたような
スティーブン・ソダーバーグ監督。でも新人監督時代にカンヌ映画祭でグランプリを獲得したこの作品のテイストが、私は一番好きです。なんか、随分変わっちゃったんだなーというのが、本音(笑)。
ジェームズ・スペイダー演じるグレアムは、仕事もしてないらしく、車ひとつで風来坊のような生き方をしている男。彼は行く先々で出会う女性たちにビデオカメラを向けて、彼女たちのごく個人的な
「性の告白」をインタビュー&録画してコレクションしています。
これだけ聞くと、ただの変質者?!という気がしないでもないけど、どうもそういう感じではないらしい。グレアムという人物は女性から見ると不思議な癒しオーラがあって(笑)、女性たちはなぜか出会ったばかりの彼に心を開き、自身の性的体験を素直に語ってしまう。
こういうミステリアスだけどナイーブな役柄を、ジェームズ・スペイダー以外に誰が演じられようか?!いないでしょう他に!(笑)
というわけで、若かりし頃のスペイダーのなまめかしいフェロモンが堪能できる、非常にありがたい映画でございます。
物語の大筋は、アンが表面的には幸福だけど実は窮屈な人生の裏で、夫と妹の裏切りがあったことに気付き、その事実を認め、抑えてきた感情を解き放つ流れを描いています。そしてそれはグレアムという一人の男の出現によって導かれたものであり、人と人との関わり合いが、いかに人生に影響を及ぼすかを、ものすごーく静かに淡々と、でもある種の緊張感を持って語りかけてきます。
また、グレアムも実は自分自身が人に下手な影響を与えないように、極力存在を消すようにして生きている男であり、そんな彼の本質を、他の誰でもないアンが見抜くのです。そしてアン自身もグレアムを新しい世界へと導き出す役目を担っていきます。
そこに至るまでのビデオテープを介した二人のやり取りが映画のクライマックスであり、それを夫のジョンがビデオテープを通して知る、という演出が、ものすごく上手い!見ていて思わず息をつめてしまうような心地良い緊迫感すらあります。(でもこの映画、寝る人は間違いなく爆睡するよ)
昔見たときは、グレアムとアンの間に男女の惹かれあいのような空気がまったく感じられなくて、この二人がなんで最後にこうなるんだ?!と戸惑ってしまったお子チャマだった私。
今回見直したら、「ああ私もオトナになったのねぇ~~」と感慨深いものがありました(笑)。
出会って間もないときから、アンはグレアムに対し、夫には感じない安らぎのような好奇心のような気持ち(そして微かな欲望)を抱いている。二人がカフェで向き合うシーンは、出会って間もない男女とは思えない柔らかな空気に包まれているじゃありませんか!
うーん。やっぱりこういうのって、年齢や経験を重ねないと見抜けないものなんですねー。映画は見る時期によってこうも印象が変わってしまうのかと、改めて感じました。
姉に複雑な感情を抱きつつ、義兄と不倫するシンディもまた、ただのイヤな女になってなくて魅力的。姉妹がラストにほのかな心の交流をするところも、べたついてなくて爽やかで、返ってジーンときます。
一番おバカでお気の毒~なのはジョンですね。コイツはどうしようもない(笑)。
この映画って、カンヌでグランプリと主演男優賞を獲得したせいで、当時はかなり話題になっていたのに、今となっては結構忘れ去られている作品なんですよね。まあ、地味だしね(笑)。
華やかなインパクトとは無縁のインディーズ臭ぷんぷんの一本ですけど、私は何故かすごく好きなんです。ラストの爽やかにプツンと終わる感じもまた良し♪
とりあえず一言。
ソダーバーグ監督、こっちの路線に帰っておいでよーー!(笑)